たんぽぽの家では、毎年7月頃に全スタッフを対象に、権利擁護についての研修を行います。虐待防止に関する研修については、全国的には障害者虐待防止法の改正によって令和3年度より実施が義務付けられていますが、たんぽぽの家ではそれよりずっと以前から、障害のある人への虐待防止や権利擁護について、皆で考えて意見を出し合う研修に取り組んできました。気になる新聞記事を持ち寄って意見を発表したり、「虐待の芽」と思われる行為について考えてみたり、と年度によって取り組む内容は少しずつ変えていますが、大切にしていることは、セクションを横断した形で開催する研修を行なうことで、スタッフどおしが、お互いの人柄や考えを知るということです。
「わたしたち」をつくるためのウェルビーイングカード体験
今年度は、「ウェルビーイングカード」を使ったゲームを取り入れた研修を行いました。
「ウェルビーイング」は最近注目されている概念で、「well=よい」と「being=状態、あ
り方」が組み合わされた言葉。その人らしく、いきいきと生きるあり方や、心地よくいられる状態を示す概念のことです。
「ウェルビーイングカード」は、渡邊淳司さん(日本電信電話株式会社 上席特別研究員)
が開発されたカードで、自分や周囲の人たちが「ウェルビーイング」な状態であると感じる要素(熱中・没頭/思いやり/親しい関係/生命とのつながり等)が書かれた32枚のカードです。これらのカードを使って、今回は「私のウェルビーイングに大切なこと」を考えました。
具体的には、参加したスタッフが5名程度のグループに分かれ、32枚のカードの中から「自分のウェルビーイングに大切なこと」を3枚選びます。そして、そのカードを選んだ理由やエピソードをお互いに発表しあう、というごくシンプルな内容です。参加者からは、「互いに相手のいいところを受け止め合うこと、自分とは違うことを理解して受け入れることの大切さがあるように思いました。小さい時からこのような研修をするといいんじゃないかと思います。」「ケアをする人が、自分自身について知っておくことがアンガーマネジメントや、ケアの豊かさに繋がるなあと改めて思いました。」「自身の楽しみや大切にしていることは何か見つめ直す良い機会になったように思います。自身が心身ともに健康でないと、いいケアは提供できないのではないかと思います。」といった感想が寄せられました。
ウェルビーイングと「権利擁護」の関係
権利擁護(アドボカシー)とは、障害のある人や認知症の人など、主張を蔑ろにされがちな立場にある人の意思を代弁する社会活動を意味します。たんぽぽの家は、障害のある人が利用する福祉施設であり、そこで働くスタッフは、障害のあるメンバーの権利を守り、ときにはメンバーの意思を代弁するようなことも求められます。そのような現場では、まず第一に働くスタッフ自身の権利が守られることが大切です。スタッフ自身がウェルビーイングな状態でいられることは、その場を利用する障害のあるメンバーのウェルビーイングに大きく作用するのではないかと考えます。
そのような意味で、スタッフが自分のウェルビーイングにとって必要なことを知っておくことに加え、共に働く仲間にとってのウェルビーイングをお互いに知ることが出来る、ということはとても意味があるのではないかと思います。
主催者側の思惑どおり、今回の研修内容は参加したスタッフに、とても好意的に受け入れられました。働くスタッフ一人ひとりが、自分も相手も大切にしながら働くことができる環境づくりを目指して、これからも研修の内容を考えていこうと思います。