自身が企画した展覧会から障害のある人の表現の魅力に触れ、たんぽぽの家への転職を決めた平井友理(ひらい・ゆり)さん。転職から9年を迎える現在では、アートセンターHANAで現場の中心的な役割を担い、商品企画やデザインなども行っています。その他、子育ても行いがらの勤務形態で働く平井さん。メンバーたちの表現の魅力と現在の働き方について、お話を伺いました。
現在のお仕事について
アートセンターHANAにはアート、ワーク、ケア&コミュニケーションの3つのチームがあり、表現と仕事をテーマに障害のあるメンバーたちと様々な取り組みを行っています。私が所属する《ワークチーム》はHANAで生まれたアートグッズや他施設の商品などを取り扱うチームで、創作の現場から生まれた多様な表現を『仕事』というかたちで社会に発信しています。
商品企画は私が一番好きな仕事で、デザインを担当したり企画発案を行ったりなど、チームスタッフとともに取り組んでいます。
ワークチームのプログラムは、アートグッズの製造や販売を行う《ショップ》と、食器や置物をつくる《陶芸》があります。陶芸プログラムでは、粘土を触るところからはじまり、釜焼き、絵付け、完成した商品のパッケージ、そして販売までをメンバーと一緒に行います。HANAではリニューアルも含めると年間10種程度のアイテムが生まれていて、私はそんなアートグッズの開発も担当しています。商品企画は私が一番好きな仕事で、デザインを担当したり企画発案を行ったりなど、チームスタッフとともに取り組んでいます。
HANAにあるショップ。平井さんが企画・デザインした商品も多く並んでいる。
転職のきっかけとなったたんぽぽの家との出会い
私がたんぽぽの家に転職をしたのは29歳のときです。大学ではデザインとイラストを学んでおり、卒業後は企業のイベント企画や、フリーランスでデザインとイラストの仕事をしていました。そんな毎日の中で、多くの人と接することに疲れるようになり、本来の自分のまま働ける心が豊かな仕事がしたいと考えるようになりました。
そんな中、キュレーター兼アーティストとして参加したアートイベントで、たんぽぽの家と出会いました。好きなことや得意なことを突き詰めたありのままの表現の面白さに、当時の私は圧倒されました。展示を見にきていたメンバーに感想を伝えると、言葉を発さず帽子を取り微笑んでハイタッチ。そのひとつの動作で彼が喜んでいるのが優しく染み込むように伝わり、人疲れをしていたのに人に魅了されてしまった、そんな心が温まる時間でした。「この人達と一緒に仕事がしたい」「こんなにも面白い人たちがいることを、もっと色んな人に知ってほしい」と思い、展示期間中に「働きたいんですけど…」と相談し、働くことになりました。
働くきっかけになった展覧会「奈良・町家の芸術祭 はならぁと@生駒宝山寺エリア」での様子
子育てと仕事 -時短での働き方について-
私は火〜金曜日の4日、9〜17時の短時間勤務制度を活用して4年目になります。産前産後休業と育児休業を約1年取得してからの職場復帰。妊娠が分かるまではバリバリと働き、今とは比べ物にならない仕事量を担っていました。
仕事と子育ての両立は自分が想像していたよりも大変で、やりたい仕事ができない辛さに涙を流したこともありました(笑)。半年程経ち両立の生活にやっと慣れてきた頃、「今の私にとって一番大切なことは子どもとの時間、そのために無理せず周りを素直に頼っていこう」と、少しずつ思えるようになり、今の自分ができる仕事を見つめ直すことができるようになりました。
自分の置かれた環境で、今できることをやっていくことが《キャリアアップ=人生の経験値》に繋がった
立ち位置を変えることで見えてなかったことに気付けたり、こぼれ落ちた仕事を拾うことで、勉強不足だった知識や技術が身につくことがあります。働き方が変わったことで、幅広く物事が見えるようになり、メンバーが安心して働ける環境を築けるようになりました。様々な変化がある中、モチベーションを保ちながら働きづつけるためには、『この仕事は絶対やりたい!』という仕事をもつことも大事だと思っています。
産休前に思い描いていたキャリアとは違いますが、自分の置かれた環境でできることをやっていくことで《キャリアアップ=人生の経験値》に繋がったと思っています。
たんぽぽの家で働くことの魅力
メンバーと一緒に働きはじめて驚いたことは、《働くこと》への意欲やプライドがとても高いことでした。障害がある人は一見できないことが多いと思われがちですが、互いに協力し合うだけで、想像を遥かに超えた魅力的な仕事をたくさん生み出してくれます。メンバーたちの自分らしく働き、できた喜びを素直に表す姿は、「働くことは表現のひとつなんだな」と教えてくれます。
私たちの仕事は、そんなメンバーたちと一緒に働くことできる環境を作ること。工程の中で見通しがつく工夫をしたり、自助具を作ったり、ときには一人ひとりの個性を活かした新商品も作ったりします。
自分らしく働き喜びを素直に表す姿は「働くことは表現のひとつなんだな」と教えてくれます。
メンバーと働いていると、絵を描かなくても、モノを作らなくても「そのままの自分で働いていいんだよ」と言ってもらえているようで、とても心地がいいです。私にとって幸せな仕事とは、何をするかよりも、《誰と働くか、誰のために働くか》が大事だったんだなと気付かされました。
《誰》の判断は《面白いかどうか》で、この感覚的な基準が、私が一番大切にしている商品企画の仕事にも活かされています。
たんぽぽの家で働きたいと考えている人に一言!
たんぽぽの家は働く先輩ママさんが多いため、両立の相談もしやすく、働き続けるための協力や理解をしてくれる環境ができています。助けてもらったその分を、私も返していきたいなと思える場所です。